日記を通じて別の時代・別の人生を生きる。
長い旅と題してみたのは、ちょっと永井荷風にかけてみた。
岩波文庫、断腸亭日乗(上)を読了。1917年(39歳)から1936年(58歳)にわたる19年分の日記であり、昨年12月頃から読みはじめ、ようやく読了した次第。
文庫一冊読むのに2ヶ月以上はかかり過ぎだけれども、こういうものは読み飛ばすなら読まない方が良い。関心があればこそじっくり読むべきものである。
およそ20年分の日々のつれづれは、簡単に批評するには余りある。
文芸作品一つにしても、批評という行為は難しい。作品として成立しているものに注がれた心血を思えば、それを「何である」と概念でくくるような行為はなかなか難しい。
だから、このブログは、作品に対する感想は述べるけれど、批評・分析は少ないのです。
また、批評・分析、そしてあらすじの詳しい紹介は、書籍との新鮮な出会いを阻害するのではないかとも思います。先入観無く出会って、はっとする。そんな楽しみを奪いかねない。
さて、断腸亭日乗、ここまでの感想。
体が弱い弱いと言いながら、日々、散策し、夜の街に歩き、多数の女と遊び、資産運用に励む。そのバイタリティには圧倒されます。
日記に記された社会情勢の推移を見るのも、また楽しい。
この人の風俗を描いた名著らが、生活を元にしていることが伺われることも興味深いです。
まだ下巻が残っているのですが、老境の荷風がこれから負け戦の戦時下をどうしのぎ、戦後復興期をどのように見たのか楽しみでなりません。