TRICK.TOKYO

東京の風景とともに。


トップページ > BLOG一覧 > BOOKS一覧 > 熟した作家の眼。室生犀星。杏っ子。

熟した作家の眼。室生犀星。杏っ子。

娘の人生に向けられる熟年作家の眼。その厳しさに驚かされる。

2012.02.08


熟した作家の目。室生犀星。杏っ子。

熟年作家の半自伝的長編。

たいてい読書は行き当たりばったりですので、読み出して、それが長編だったりすると暫くその世界に浸り込むことになります。室生犀星「杏っ子」もそんな風に読み出しました。
室生犀星も著名ではありますが、なかなか手を伸ばす機会も無いもの。そして、この「杏っ子」は、室生犀星が67歳の時(昭和33年)から1年間に渡り東京新聞に連載した、原稿用紙で800枚にも及ぶ長編です。既に作家として熟成した室生犀星の半自伝的小説です。
初見で自伝を読むというのはヘビーなものですが、手にしてしまったから仕方が無い。前半、作家自身の生い立ちが足早に語られます。そのまま自叙伝で進むのかと思いきや、娘が生まれて以降は、ほぼ娘の話に集約して行きます。

現代でも古びないリアルな観察眼。

幼い頃は、娘に女性の美を期待し、ピアノを習わせたりする。年頃になると、それほど突き抜けた美人にはならないだろうと作家らしい突き放した視線を送ります。娘の結婚から、破綻に至る下りは、娘の話と言うよりも、男女関係についての作家の観察や定見に近いものかも知れません。
また、江戸末期に生まれ、明治・大正・昭和を生きた作家としては、その当時の社会を踏まえたリアリティがあり、今読んでも古さを感じさせません。
さすがに熟年の作家らしく、感傷や機智に頼るということは無く、己の作家眼に基づき、ぐいぐいと力強く書き上げた小説だと思いました。




<前の記事へ | カテゴリ一覧 | 次の記事へ>

浮世絵動画サムネイル

動画再生ボタン

動画のモーダル表示の例

GRIPへのリンク

ダミーバナー

ダミーバナー


Sitemap

RSS

お問合せ

ページの先頭へ

ページの先頭へ